製造業、メーカー、ソフトウェア開発などBtoB事業者が技術マーケティング・Web制作する際に重要となる考え方をまとめました。
製造業、BtoB事業者にとってWebサイトとは何でしょうか?それは、オンラインに配置する営業マンです。その営業マンを働かせるためには、リアル営業(フィールドセールス)のように、営業マンを顧客訪問させるわけではありません。代わりに、見込客が関心を持つコンテンツをWeb上に置きます。すると、検索を通じてユーザがWebサイトを訪れます。コンテンツ数を増やせば、ユーザ数も増えます。
ユーザには、見込みの度合いに応じて複数の段階があります。その段階に応じたコンテンツを企画することで、問い合わせ(リード)を獲得します。獲得したリードにフォローを行い、商談化していきます。この一連の流れを実践していくことが、Web活用であり、インサイドセールスの実践です。
目次
セールスサイクルを短くするユーザエクスペリエンスの設計
BtoB事業と、BtoC事業の最も大きな違いは、BtoB事業の場合は法人営業ですから、意思決定者が個人ではないということです。実際に意思決定権を一人が持っていたとしても、その個人のためだけに意思決定されることはなく「法人」という組織にとってその意思決定が及ぼすメリット・デメリットが検討されます。
よって、「個人が街なかでウィンドウショッピングをしながら衝動的に何かを買い物する」のような行動にはならず、一般的には複数の階層や部署とネゴシエーションして意思決定されます。ですので、意思決定者が複数おり、意思決定までに時間が必要です。
製造業、BtoB ホームページの大きな役割の一つは、その長い「セールスサイクルを縮める」ことです。Webサイトがなくても、営業はできます。BtoCと違ってマス相手のビジネスではありませんので、見込み客であろう企業に目処もたちます。一社一社足を使って訪問することができます。しかし、その場合、非常に時間がかかります。
そこで、Webサイト上にコンテンツを置き、そのことに関心のある人を集客します。集客した人たちが問い合わせをしてくれる仕掛けを持ち、リードを獲得します。ここまでが見込み客をWebサイト上から獲得する流れです。しかし、そこでは終わりません。その後、そのリードに対して電話やビデオ会議をして、相手の状況を理解し、評価・分類します。その分類した顧客リストに対して定期的にフォロー・アプローチを行い、成約まで繋げます。
【BtoBのセールスサイクル】
Webサイトや展示会を通じてリードを獲得する→リードの評価→インサイドセールスを通じて商談化→対面営業(フィールドセールス)
この一連のフローを通じて、各ポイントで顧客にどのような体験を提供するのか考えることがユーザエクスペリエンス(顧客体験)の設計です。どのような顧客が、どのような課題を持ってWebサイトへ来るのか、それに対してどのような仕掛けを作り、相手の課題への提案を行い、フォローを行うのか、このようなフローを戦略的に構築することでセールスサイクルを短くすること。そのことがまず、製造業・BtoBホームページ制作に求められます。
特に近年は、インターネット上で各企業が多くの情報を発信していますので、売り手都合のセールスで不快な経験を与えることはデメリットで、簡単に他を選択できます。ユーザエクスペリエンスを設計し、顧客との関係性(エンゲージメント)を重要視することが求められています。
ウェビナーやライブデモを行うBigRepの事例
3DプリンターメーカーのBigRepでは、3Dプリンター活用についてさまざまなテーマでウェビナーを提供しています。さらに、ライブでデモも行っています。このような「問い合わせを得る仕掛け」を持つことは、関心に沿ったユーザーの申込みを促します。そこでインタラクティブな体験を提供し、ライブで質問に答えることで、相手の課題を解決するスピードをあげています。BigRepに関する分析はnoteで。
ユーザに専門家だと思わせる、しかし、ユーザー主体のコンテンツ
プロ向けの製品を開発しているメーカーやOEMメーカーでは、ターゲットユーザもプロであることが多いです。そのプロは、Webサイト上のコンテンツから、自分以上の知識を感じることがなければ、問い合わせという行動を起こしません。
製造業、BtoBホームページ制作におけるコンテンツとは、ユーザに専門的知識を提供することと、ユーザが持つ課題を解決すること、その双方が求められます。専門性というのは、ユーザベネフィット(メリット)を生み出す基盤です。
消費者向け商品を販売する場合は、消費者にアピールするのは消費者ベネフィットのみでも良いでしょう。例えば、ビデオ会議を行う際に顔を美しく見せる美顔ライトという商品がありますが、消費者向けアピールとしては、そのライトを使用したビフォーアフターを見せ、そのライトがいかに表情を美しく見せるか、それだけで良いのです。なぜそうなるのか、という専門的技術にユーザは興味がありません。
BtoB向け製品の場合、例えば計測器という製品を考えてみます。その計測器を用いることで、より正確な計測ができるようになり、結果として社内の品質ガイドラインを厳しく設定し高品質に貢献するとします。この場合、先程の美顔ライトのように「この計測器を使用すると品質ガイドラインを厳しくでき、競争力が高まります」では足りません。経営層やマネジメントクラスでは利益アップや競争力強化という上層の目標が重要ですが、計測器を使うユーザの課題はもっと手前にあるからです。
つまり、製造業、BtoB事業の場合、職種、部署や階層によって関心事が異なり、それぞれに応じたベネフィットとそれが実現できる専門性を見せていく必要があります。
また、近年、「日本の技術者のレベルが下がっている」とは良く聞く話だと思いますが、教育コンテンツの重要度も高まっていると感じます。意思決定をしたり、社内で稟議をあげるためには知識が必要です。その知識を補うことができるWebコンテンツを持つことは良いアイデアでしょう。
湿度に関する知識ハンドブックを公開するMACの事例
温湿度測定器メーカーのMACでは、自社製品の説明だけではなく、湿度や湿度計そのものに対するアカデミックなコンテンツを公開しています。
イントロダクションのところに書いてあることは「これまで様々な企業との対話を通じ、誰もが湿度や湿度計に対する正しい知識を持っているわけではないと気づきました。業界のリーディングカンパニーとして、それを説明する責任があると思います。」から始まって、知識を提供するコンテンツとなっています。 MACに関する分析はnoteで。
検索エンジンフレンドリー
Webサイトからリードを獲得することは、製造業・BtoB企業にとって重要です。1でセールスサイクルについて触れましたが、セールスサイクルの始まりは「リードの獲得」からスタートするからです。
【BtoBのセールスサイクル】
Webサイトや展示会を通じてリードを獲得する→リードの評価→インサイドセールスを通じて商談化→対面営業(フィールドセールス)
リードとは、日本語では見込客と同義で使われますが、ここが必ずしも同義ではないことがポイントです。展示会やWebサイトを通じ、見積もり依頼、問い合わせ、デモ機の申込み、資料のダウンロードなど、さまざまな方法でリードを獲得することが可能です。しかし、それらは100%、見込客ではありません。
書籍「THE MODEL」によれば、リードの内訳は、65%が育てる必要があるリード(将来の見込客)、25%が競合やパートナー(見込みなし)、10%が見込客であるとあります。 つまり、獲得したリードを見込客に育てることができなければ、Webサイト活用や展示会出展は孔の空いたザルにリードを入れているようなものです。
Webサイトからのリード獲得は、コンテンツマーケティングが中心です。リードを獲得するためにコンテンツを追加し、コンテンツに関心のあるユーザーを集客します。他にリードを獲得する方法としては、広告、セミナー開催、展示会出展などあります。しかし、コンテンツマーケティングとその他の方法との違いは、コンテンツは蓄積される、ということです。1記事が月に1件のリードを獲得することができれば、100記事あれば100件のリード獲得につながります。広告やセミナー開催が損益型の行動だとすれば、コンテンツマーケティングは資産型の行動と言えます。
そして、「コンテンツ充実によるリードの獲得」を支えるのが、検索エンジンフレンドリーなWebサイトの作りです。
検索エンジンフレンドリーであることは、多種多様な側面があります。モバイルフレンドリーであることもそうですし、読み込み速度が速いWebサイトである必要もあります。
しかし、ここで重要なことは、製造業・BtoB事業者にとって「検索エンジンフレンドリー」とは、単にSEOやGoogle対策といったトレンドの話ではなく、それは、セールスサイクルのはじまりである「リードを増やす」目的のためであり、ユーザー主体のコンテンツを企画する必要がある、ということとセットで考えるべきということです。「今日は10位だった、昨日は3位だった」という世界ではないのです。
毎月1記事のブログ更新、FAIRLANN TOOLの事例
板金加工のFAIRLANN TOOLでは、「板金公差とは何か?なぜ重要か?」「タレパン vs レーザーカット。どちらがいいの?」など、見込客が疑問に感じる内容で、ブログを月に1記事更新されています。そしてlaser vs turret と検索すると当社のブログがGoogle 1位に表示されるなど、月に1度の記事更新が検索エンジンからの流入はもちろん、検索キーワードの種類の多さにつながっています。
下記は競合分析ツールSpyFuの画面です。平均して月に443種類のキーワードで2.28Kクリックされていました。 Fairlawn Toolに関する分析はnoteで。
複数のCTAsを企画する
CTAとは、 Call To Action の略で、Webサイトに訪れたユーザを何らかのアクションに導くこと、またはそのためのリンクボタンです。 お問い合わせフォームを設置し、そのフォームへ誘導する「お問い合わせはこちら」というボタンをWebサイト上に置いた場合、1つのCTAとなります。そして、製造業・BtoBホームページにおいては、複数のCTAsを企画し、置くことが望まれます。
例えば、下記のようなCTAsが考えられます。
資料請求 | カタログ、パンフレットなどを郵送する |
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小冊子請求 | テーマを絞った小冊子を作成し、ダウンロードまたは郵送する |
データダウンロード | 分析データなどをダウンロードできるようにする |
簡易診断 | Webフォームに必要事項を入力してもらい、簡易診断を行う |
相談会・勉強会 | 自社で相談会や勉強会を開催する |
デモ依頼 | デモ機を持参し、現地でデモを行う |
テスト機貸出 | テスト機の貸出を行う |
サンプル・試用 | 製品サンプルを有償または無償で提供する |
見積もり依頼 | 見積もりを行う |
視察申し込み | 工場見学など、視察の申し込みを行う |
ニュースレター登録 | ニュースレターの登録を受け付ける |
なぜ、複数のCTAsが必要なのでしょうか? これは、ユーザによって製品・技術の関心度にばらつきがあるからです。「購入」を最も敷居の高いコンバージョンと考え、その最終ゴールに向けて、手前にもう少し敷居の低いコンバージョンを複数企画し、リード獲得数を増やすことが目的です。
Webサイト上にユーザの課題解決に役立つコンテンツを持ち、そのコンテンツで集客をするとき、そのユーザとは「自ら検索した人」です。検索エンジンからの集客(SEO、検索エンジン連動型広告など)を考えるとき、能動的に問題を解決しようとしている人しか集客できません。これは検索エンジンを使ったマーケティングの限界と言えます。
一方、展示会に出展すると、「自分の課題に自分で気付いていなかった人」にもアプローチすることが可能です。この人達は、後からWebサイトに訪問するかもしれません。このように、ユーザの関心には様々な段階があります。 そのため、複数のCTAsを企画し、Webサイトに配置することがリード数増加につながります。
今すぐ欲しい人のためのオンラインストア MicroGroupの事例
医療用ステンレスチューブなどメディカルデバイスを製造しているMicroGroupでは、トップページから3つのCTAsが提示されています。 見積もり依頼(中央のオレンジボタン)、すぐ買う(その右のオンラインショップ)、質問をする(右下の水色チャット)。
海外のWebサイトでは製造業・メーカーWebサイトであってもチャットをかなり目にします。「今すぐ欲しい」人に向けてオンラインストアを持つことは、購入を決めている人にとっては非常に便利ですね。このWebサイトは、この3種類の要求に”まっしぐら”です。MicroGroupに関する分析はnoteで。
動画活用で意思決定を促す
YouTubeはGoogleに次ぐ検索エンジンとなり、リード獲得のために動画活用も重要な要素となっています。
動画の場合特に、関心の度合いが初期の段階のユーザのみならず、意思決定の段階で影響力があることが分かっています。 エンジニアに対するマーケティング調査レポート「2020 Smart Marketingfor Engineers®」によれば、意思決定に重要なコンテンツとして下記があげられています。
製造業・BtoBにおけるリード獲得のWeb戦略では、自社製品や技術に興味を起こさせたり、検討段階に入るまでの情報は公開し、ユーザが自分の意志で自由に情報を探せるようにしておきます。そして検討段階になったらメールアドレス等を入力して具体的にフォローできるようコンテンツを企画します。
認知拡大・興味喚起 | 検討初期 | 検討中期 | 検討後期 |
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市場トレンドや技術紹介をブログで公開し、集客を強化する | 自社製品の紹介、How-toコンテンツなどで自社の特長を伝え、意思決定に必要な情報の教育を行う | 比較検討コンテンツ、ウェビナーなどで比較検討時の情報を提供する | 製品デモ、レンタル、データシート、顧客事例などの紹介を行い意思決定を促す |
「ブログなどさまざまな情報の入り口で関心を持ったユーザが、製品デモ動画やケーススタディで具体的な情報を得て意思決定を行う」というように、検討プロセスの段階に応じて必要な情報は異なります。
そして、意思決定の際に重要な情報としてデータシートは当然として、製品デモ動画、How-toビデオ、ウェビナーが動画分野として有効です。
その他、製造業・BtoBの動画活用のテーマとしては、下記のようなものがあります。
FAQ動画 | よく質問される内容について答えることで、ユーザが持つ疑問を解消します。 |
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人気ブログ記事を解説する動画 | 良く閲覧されている人気記事は、ユーザの関心が高いことが証明されています。動画でブログ記事を解説しながら、さらにその内容を深めます。 |
ケーススタディ | 御社の製品や技術がどのように顧客メリットを生み出したのか、ケーススタディを紹介します。 |
製品比較ビデオ | 同じような製品を持っている場合、違いについて解説することで、製品への理解を深めます。 |
業界リサーチビデオ | 独自に調査した業界の統計やデータを伝えます。業界について精通しており、リーディングカンパニーであるアピールができます。 |
製品トレーニング動画 | 製品の使い方・トレーニングを動画で解説します。顧客からの質問対応にかかる時間を減らします。 |
社長メッセージ | 社長がビジョンを語ることで将来性のある会社だという印象を与えることができます。 |
レスポンシブWebデザイン
この項目は、大きな視点で見ると「検索エンジンフレンドリー」に属します。しかしあえて、なぜレスポンシブであることが重要か考えてみましょう。
レスポンシブWebデザインとは、スマートフォンやタブレットなどモバイル端末でWebサイトを閲覧したときには、各デバイスに合う形でWebサイトの「見え方」が変わるWebサイト設計です。 パソコン版、スマートフォン版・・・と複数Webサイトを構築するのではなく、Webサイト自体は1つで、閲覧するデバイスに応じてWebデザインが変わるように設計します。
デバイス別に複数のWebサイトを構築してしまうと、運用が煩雑になり、情報の一元化が難しくなりますので避けるべきだと私は考えています。
しかし実際に、製造業やBtoB事業で、パソコン以外のデバイスでWebサイトを閲覧する人はどれくらいいるのでしょうか?以下は、弊社で管理させていただいている中小製造業ホームページを見ているモバイルユーザの割合(平均値)です。スマートフォンとタブレット合わせておよそ4分の1程度のユーザーが、モバイル環境でWebサイトを閲覧しています。
これらモバイルユーザにとっても、見やすいWebサイトであることは、1のユーザエクスペリエンスにも関わってきますし、3の検索エンジンフレンドリーとも関わってきます。
現在、Googleの検索システムにはモバイルファーストインデックス(MFI)が導入され、パソコンのページの検索評価は、モバイルサイトを使って行われています。そして改善点について、Googleが提供するサーチコンソールの中で確認できるようにもなっています。パソコン向けWebサイトを無理やりモバイルにも表示していれば、見やすいはずがありません。
例えば下記のようなエラー、「文字が小さい」「クリックの要素が近すぎる」(スマホは指でタップするため、クリック要素が近いとタップしにくい)のようなエラーは、パソコンWebサイトのみでは解決しようがありません。
BtoB事業者にとっての問題は、このことが、パソコンでの検索順位に影響を与える、ということです。BtoCビジネスと比較して、製造業・BtoB向けホームページでは、モバイル比率はそれほど高くありませんが、パソコン版Webサイトの上位表示のために、レスポンシブ対応はマストと言えるでしょう。
モバイルでも見やすい製品紹介JOHN DEERE
農業用のトラクターなどのメーカーJOHN DEEREの製品紹介ページはモバイルでも非常に見やすい設計です。動画、スペック表を含めて長いページですが、パソコン、モバイルどちらもストレスなく閲覧できます。
人材採用のためのSNS活用
最後に、SNS活用について触れたいと思います。製造業、BtoBビジネスとSNS活用は、あまり親和性がないと思われるかもしれません。「取り組んだ方が良いと思うけれど、でもそれほど重要度は高くない」という印象でしょうか。 しかし、人材採用という観点からは、SNSは重要なメディアです。海外でよく採用に使われるSNSはLinkedInですが、日本での知名度は高くありませんので、ここはあまり海外事例は参考になりません。
日本では、大企業を中心に、採用専用のFacebookページやtwitterアカウントを運用している事例があります。例えばオラクルの採用twitterや、DMMのFacebookなどです。
中小企業の場合、採用専用のアカウントを作るところまでいかなくとも、自社の取組や社内のこと、製品紹介を行うなど広報目線の情報発信を行うだけでも、十分アドバンテージが持てるでしょう。なぜなら、日本の中小製造業のほとんどが、SNSを活用していないからです。
営業目線の情報発信と、広報目線の情報発信は、異なります。これまでのポイントであげてきた1から6までは営業目線ですが、広報目線でSNSを活用することは、人材採用には貢献することでしょう。 このように、ツールを活用する際には目的をはっきりさせておくことが重要です。
以上、製造業、BtoBホームページ制作・Web戦略における7つのポイントでした。Web活用の素晴らしいところは、企業規模に関わらずニッチトップのポジションを獲得できるところだと考えています。営業課題がありましたら、お知らせください。Web活用目線で、ご提案させていただきます。